そこで今回は僕が知っているステッキの歴史について、書いておきたいと思います。
狩りなどの途中、負傷した人が山、森の中で落ちている木の棒を支えにした。
農作業時に土を掘り起こしたり、石などを退ける道具として使われた。
植民地拡大、戦争の時代になると引き継がれるものは農具から武器へ。
発展の時代、権威の象徴に。
そこで、剣ではないけれど、そのステータスを示すものとして杖、ロッドが発展していきます。不要なものをあえて携帯することが権力のシンボルとなりました。貴族、各組織で要職についている人にとって「お金持ちはあくせく労働しない、片手を塞いでいても、優雅に暮らしていけるんだよ」という見栄やエゴのためのアイテムになっていった様です。
これはステッキだけの話ではなく、良くも悪くも、ゴージャス、ラグジュアリーなファッションが好まれ発展していった時代のメンタリティです。具体的にいうとフランス・王侯貴族時代ということでしょうか。この時代の芸術品などを見ても、装飾が多かったりしますよね。
余談ですが、こうした時代には権力者の下に職人や料理人が集められ、日々腕を磨く様になります。そしてその周りでは文化が発展していくそうです。
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フランスからイギリスへ主権が移動、見た目よりも取扱いの作法が重視される様に。
工業の発展により、質の高いものを大量に生産し安価で提供することが可能になりました。また、プロテスタントが重視する質素倹約と富の蓄積の精神が徐々に広まり、「美しく装うためには目立つ必要がない」という考え方が受け入れられる様になりました。もう少し平易な言い方をすると、「他人と同じものでも良いじゃないか」という考え方です。一様にブラックやグレーのタキシードを着た様です。
しかし、やはり自己主張は人間の根本的な欲求なのかもしれません。同じような服を着る中でも、他人との違いを主張したいという人は居ました。メインストリームでなくなったとはいえ、位の高い人々は当然残っています。
そこで重要視されたのが、ハット、ネクタイ、手袋、そしてステッキです。他人と少しだけ違う、よく見るとこだわりがわかるアイテムを身に纏う様になります。
そして、またまた余談ですが、個人的に面白いと思ったのはそれらのアイテムの取扱い方についてです。例えば、ステッキの持ち方やハットの着脱の作法がその人の価値を判断する要因となっていたそうです。いわゆるマナーのことだと思います。
高価なモノかどうか、前の時代よりは一見してわかりにくくなりました。そこで、その人が紳士淑女かどうかは「立ち居振る舞いから判断する」と考えられていた様です。日本でも由緒ある家の方ほど落ち着いた印象を受けるのは、共通のメンタリティがあったりするのかなと思います。
明治になって日本でも普及、文豪たちも愛用した。
また夏目漱石や芥川龍之介など明治の文豪たちも愛用していた様で、彼らの作品にもステッキを用いた心理描写が用いられています。「吾輩は猫である」の猫が見ている苦沙弥先生(実質の主人公であり、漱石自身を書いたものと言われる人物)は、怒るとステッキを持って生徒を追いかけました。
歴史的背景を知ることで、見方が変われば良いなと思います。
一方で、これから日本が直面する高齢化社会において「杖は恥ずかしいもの」という考えはネガティブであるとも思います。ステッキを使いたくないからと言って家に籠るよりも、外出して運動したり友人と会話することで、より健康で明るい人生になると思うからです。
老眼鏡や補聴器と似ていて「衰え」のイメージが強いステッキですが、僕は上記のような歴史を知ることで見方が変わりました。特に英国紳士のメンタリティは、「頑張って前に出るのは気が引けるけど、少しは自慢したい時もあるよね」という僕にはピッタリで、共感します。
だからこそWalking Stick のコンセプトとして”品と質の両立”を掲げていますし、職人の方々の仕事をしっかりと伝えたいと思っています。一本の木から曲げを作るのも、それに合わせてレザーを成形していくのも、本当に高い技術がないと出来ません。本質を知る人には伝わる良い製品だと思います。
そうすると、やはり Web だけでは駄目で実際に手に取っていただく機会や場所が必要ですよね。外にもっと出ていって人にお会いしていきます。期間と数量を決めて、無料貸し出しとかするのも良いかなと思いました。興味があったり、アイデアある方はご連絡いただければ幸いです(コンタクトはこちらのページからお願いします)。
最後は歴史の話ではなくなってしまいましたが、こういった考え方で頑張っていきたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いします。